電離層垂直観測
概要
電離層垂直観測(イオノゾンデ観測)は、南極昭和基地におけるメインの電離圏観測方法です。電離圏は電子密度に応じた周波数の電波を反射する性質があります。
電離層垂直観測はこの性質を利用し、地上から周波数を変えながら電波を発射し、電離圏から帰ってくる反射エコー(イオノグラム:図1)を計測することにより、電離圏の電子密度高度分布を得ることができます(図2)。
この電子密度高度分布が、通信・放送用の電波伝搬の状態を知る上で非常に重要です。
また、高緯度帯で発生するオーロラは電離圏の擾乱と強く関係していることが知られています。近年では、電離層高度長期変動と地球温暖化との関連が指摘されるなど、電離層長期観測データの重要性が高まっています。
地上から電波を発射し、電離圏からの反射を観測することにより電離層の鉛直構造を得る。
電離層垂直観測装置(FMCW方式)
電離層観測の定常的安定運用を目的として現用の電離層観測装置(FMCW方式)は、開発されました(図3)。信頼性が高く、安定運用が可能な観測装置として昭和基地に配備して定常運用を行っています。
本観測装置は従来の10C型電離層観測装置(4kW)に比べて低電力(100W)で運用が可能です。尚且つ国内や東南アジア等で実績を積んできたFMCW方式を採用しています。
加えて、専門的訓練なしに故障対応ができるようシステムの冗長化とモジュール化(図4)を図っています。
FMCW方式のシステムの開発は平成20年度より開始し、平成21年度には2台の装置の製造を完了しました。これらは第51次隊が南極に持ち込み、テスト観測を開始してきました。2016年(平成28年)1月より、低電力型の新システムで運用を行っています。
無線設備系統図はこのようになっています。
40m高デルタアンテナ
FMCW型電離層観測装置は、昭和基地に2装置冗長系として運用を行っています。
従って、アンテナも2基所有し運用を行っています(図6)。
デルタアンテナの構造:写真の赤白のポールは支柱、アンテナは三角形をなしたワイヤーアンテナとなっている。
10C型パルス方式とFMCW方式のイオノグラム
電離層垂直観測装置、10C型パルス方式とFMCW方式のイオノグラムの比較した例を示します。ほぼ同時刻に取得したデータを示しています。
左がFMCW方式、右が10C型パルス方式となります(図7)。ほぼ同じイオノグララムを示しています。